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5月23日の日曜日は待望の冠山登山の日であった。しかし、目が覚めると雲の多い空模様である。何とか午後2時ごろまで雨が降るのは遠慮してほしい。その思いもかなわず、雲は厚くなり朝食前には雨がポツリポツリと屋根を濡らし始める。 この天気では素人を連れての登山は無理なので、ここ池田町の観光をすることにする。朝食後に宿を出てこの地の有名な滝を見てから、そば打ち道場で越前そばのそば打ちを体験し、養鱒場の釣り堀で鱒を釣り土産にして帰るという案に変更するが、朝食後に荷物をまとめてロビーに集合すると、雨が止み、空が明るくなってきた。元々冠山に登ることを楽しみにしていたので、衆議一決、とりあえず冠山峠まで行き様子を見ることとなった。 峠に向かって車を走らせると、さすがに豪雪の雪国である。山の斜面には、雪崩防止柵があり、山側の斜面の樹木は雪の重みのために幹をたわませながら空に向かっている。そんな車窓の景色を楽しみながら、峠に向かっていると前を走る車に追いついてきた。 ふと前を見ると、マイクロバスが3台ほど走っている。そのバスに近づくと乗っている人の頭には、帽子があることも確認できる。やはり、冠山に登る中高年登山隊の一行だろう。少し、気が重くなる。そんなことを思いながら、前方を見ると、なんだか赤く光るものが見える。カーブの連続なので、谷の向こうではあるが、直線距離の短くなったところで確認すると、やはり赤い光の正体はパトカーであった。福井県警の文字も読める。急に車内は騒然となった。事件があったのか。ひょっとすると、死体でもあるのではないか。限りなく想像は広がっていくのであった。 |
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山の定石どおり、窓の外は車の高度が増すにつれ、ガスがかかり風も出てきた。そして、雨も落ちてきた。普通であればやっぱり登れそうもないとか、残念だねというような湿っぽい会話になるのだが、前方の状況がわかるにつれ、ますます車内の会話は活気を帯びてきた。 木の間越しに見えるつづら折りの道路の先には、1台ではなく2台のパトカーが見えるではないか。さらに走っていくと、路肩に止まっている消防車も発見。その場所は最後の人家から相当高度を上げた場所である。山登りを始めて15年以上になるが、こんなに人里離れた場所でパトカーや消防車を見たことは一度もない。やはり、遭難か。事件か。車外のガスや風、雨が雰囲気を盛り上げる。 登坂路でもあるし、前に走るのがマイクロバスなので、どんどん追いついていく。そして、前方を走る車の様子もはっきりと確認できるようになってきた。福井県警のパトカーの後ろにマイクロバスが3台。その後ろにまた福井県警のパトカーが走っているのだ。そう、パトカーがマイクロバスの前後を走っているのである。しかし、ただ前後を走っているというより、護衛しているといったほうがよいかもしれない。なぜなら、私の車の3台前がパトカー、その前がマイクロバスである。普通山道であれば、速度の遅い車はすれ違いが可能な場所で後方の車に道を譲るものであるが、そのパトカーは頑として道を譲らないのである。結果を言えば、最後まで道を譲らなかったのである。 その後、パトカーのすぐ後ろの車が停まったかと思うと男が一人出てきて、写真を撮っているのである。レンズを向ける先は、マイクロバスとその前後のようだ。撮影したかと思うとすぐに車に飛び乗り、また前のパトカーについて行くのであった。そのカメラマンの乗る車はワゴンで、バックドアを大きく後方に跳ね上げている。その荷台にカメラマンを乗せ、走って停まり撮影し、また走るということを繰り返しているのである。 これは、事件ではない。ひょっとしてひょっとすると一生語り継ぐことのできるエピソードが持てるかもしれない。雅子さまに会えるかもしれない。当然皇太子様も一緒だと思うのだが、やはり、どちらか一人でもとなると会いたいのは雅子様になってしまう。一転、車内は期待に胸を膨らませながら会話が弾む。皇太子様は、山登りが趣味で少しづつ各地の名山を登られていて、御成婚後は雅子様も一緒に登っているのだから。会えるだけでなく話もできるかもしれない。 |
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そういえば、昨日冠荘には、日本山岳会福井支部の会員が団体で宿泊していたが、パトカーで護衛させるような人物と一緒に、前を走るマイクロバスに乗っているのだろうか。パトカー、消防車、報道関係者、日本山岳会と条件がそろいすぎている。皇太子殿下と雅子様とまではいかなくても、山で出会える可能性のある有名人ということで、いつも話題にのぼる女優の市毛良枝又は共産党の不破委員長という線もある。 例のとおり、少し道が広くなった場所で車が停まり、カメラマンが撮影する。しかし、シャッターを切る回数が多かったためか後続車が追い越した。そのまたすぐ後ろが私の車である。チャンスである。私はブレーキをかけ、そのカメラマンに車を寄せ、どなたが乗っているのか問い掛けてみた。一瞬、戸惑うような表情を見せた。しかし、そっけなく返ってきた答えでは、そのような人は誰も乗ってないと言う。 冠山峠まで間近に迫ってきた。窓の外はますますガスが濃くなり、視界が悪くなっている。前を走る車のブレーキランプが次々と赤く点灯する。いよいよ峠のようだ。ガスでよく見えない前方を目を凝らして見ると白いものがある。さらによく見ると、それは運動会などでよく使う屋根だけのテントである。そのテントには池田町の文字も読める。これで町役場の関係者も来ていることがわかる。草は茂っているが、路肩が広くなっているところがあったので迷わず駐車した。車を降り、歩いたほうが早くテントのところまで行けると判断したからだ。 |
このページ先頭に戻る | 岐阜県藤橋村 |
冠山 | ダムに沈む徳山村 |
とりあえずカメラだけを用意し、急ぎ足でテントのある場所に向かう。一体、何があるのか。何がおきているのか。誰がいるのだか。想像以上に人や車が多い。岐阜県側の藤橋村からも来ているのだ。期待に胸が高鳴る。 |
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これは何ということだ。神主もいるではないか。しかし、人が死んでいるのなら坊さんのほうがいいのではないのか。 |
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天気が悪く冠山に登ることはできませんでしたが、思い出多い山行となりました。 |
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